泣き顔の白猫
(やっぱり、担当刑事だったから……?)
この連続殺人と関連して安本が襲われる理由なんて、それ以外には思い付かない。
名波が五年前に受けた、取り調べとは名ばかりの屈辱を考えても、復讐としては自然だ。
セクハラ発言の当事者はとっくに転勤して、今は館町にはいない。
当時あの事件に関わった警察関係者は、もうこの町には、安本しかいなかった。
安本が襲われるかもしれないと、もっと早く気付けてもよかったのに。
昨日調書で安本の名前を見ていた加原が、自己嫌悪に陥るもう一つの理由は、それだった。
絶対に疑いたくない人なのに、名波を疑わなくてはいけない。
そんな状況に苦しむ加原にとっては複雑なことに、加原のいる強行犯係の中でも“五年前の事件”というキーワードが注目されはじめていた。
今まで誰もそこに目をつけなかったのが不自然ではあるが、それはつまり、名波という存在が、捜査線上で認識されはじめたということだ。
五年前に被害者たち五人が深く関わった殺人事件の犯人が、今年の春に刑務所を出所していること。
現在は館町西警察署近くの喫茶店、『りんご』で働いていること。
そして、最近の加原がその店に足繁く通っていたことに気付いた者も、中にはいた。
それは、『りんご』のメニューに、名物であるファミレスのような大盛り料理を加えさせた張本人だった。