泣き顔の白猫
加原は、まず安本の自宅へ向かった。
病院で手当ては受けたが、しばらくは自宅療養、ということらしい。
右腕に巻かれた包帯を険しい顔で見る加原の顔を見て、安本はくしゃりと苦笑した。
「なんつう顔してんだ。これから自首しに行くみてぇな面して」
「自首を勧めに行くんです」
「……いいのか」
「当たり前でしょう。俺は刑事ですよ」
「情けない顔して、よく言う」
「俺だってほんとはこんな」
加原は、はっと口をつぐんだ。
本田の前では断固決意していられたのに、安本の困ったように笑う顔を見た途端に、弱音を吐きそうになる。
自分がどれだけこの先輩刑事に頼りきってきたか実感して、表情だけではなく、本気で情けなくなった。
それも表情に出ていたのか、安本は笑う。
「疑い切れてねぇんだろ」
「……それは」
図星だった。
一つに、加原の立てた仮説は説得力はあるが、どれをとっても状況証拠ばかりで、物的証拠が何もないこと。
もう一つに、名波の人間性を知ってしまったせいで、いまいち確信を持てないでいたのだ。
「自分を信じろ。お前が正しいと思った方に突き進めよ、若いんだから」
安本は、薄く笑って言った。
「でも、大人の言うことはちゃんと聞いた方がいい。失敗からは学べよ。いいな」
これには加原も、かすかに笑顔を浮かべて答えられた。
そのための説教くさい言葉だったのかもしれない。
「ヤスさん、俺そこまでガキじゃないですから」