泣き顔の白猫

それは加原が、電話をやめて、名波にメールを打とうとした時だった。
見覚えのある車が、視界を過った気がしたのだ。

「……ヤスさん……?」

しかし、これといって特徴のない、シルバーのセダンだ。
さほど車に詳しくない加原は、見た目で見分けることもできない。
かといって、数回しか見たことのない安本の車のナンバーを覚えているわけもない。

すぐに見失ってしまったが、嫌な予感が加原を襲った。
なにか引っ掛かる。


加原はメールを送信し、携帯電話をしまうと、自分の車に乗り込んだ。

名波がどこにいるのか、加原が知る心当たりは少ない。
そもそも加原が彼女について知っていることは、名前の字と年齢、館町の出身であるということくらいだ。
平河名波というフルネームだって、捜査の上ではじめて知った。

名波という“人間”を知っていれば、そんな情報は必要ないと思っていた。
思っていたのに、今は彼女を知らないことが、こんなにもどかしい。

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