泣き顔の白猫

事件現場の路上、歩道橋、立松岬、坂の上、海。
名波の家の近くの桜のある通りや、その近辺。
館商高校の校舎裏。

ほとんど休むことなく車を走らせたが、名波の姿はない。

加原は、ずっと感じているひっかかりが何なのか、ハンドルを握りながら考えていた。

さっき、安本の車に似たセダンを見た時から――いや、もっとずっと前からあった小さな違和感に、やっと意識を向けたのだ。

(いつから……何に?)

思い出せ思い出せ、と念じるように心で唱える。
そもそもどこで芽生えた違和感なのだろう。

加原は、車を路肩に寄せる。

ち、ち、という、ハザードの音。
時計の針が進む音か、舌打ちの音に似ていて、気持ちが焦る。

思い出せ、と、今度は口に出して呟いた瞬間。
加原の脳裏に過ったのは、予想だにしなかった点だった。

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