泣き顔の白猫
鈴木学ら四人の証言にあった、『平河名波はいつも護身用のナイフを持ち歩いていた』という話。
名波の人付き合いが希薄だったせいか、彼らの他に見た者はいなかった。
そして彼女本人は、そんなものを持ち歩いたことはないと言っている。
しかし事実、名波の指紋がついたナイフが、事件から二週間ほど経ってから発見された。
場所は、何度も捜査したはずの校庭の隅だ。
拭き取ってはあったが、畑野優馬の血液も検出されている。
それが、彼女が逮捕された直接の原因のはずだ。
それについて名波は、一週間ほど前に校内で拾っただけ、小さなものだったのでオモチャかと思って、そのまま近くのゴミ箱に捨てた、と供述していた。
名波が事情聴取を受けた日から遡って一週間前ということは、事件があった日から一週間ほど後、ということである。
正確には事件の発覚した朝から八日後に、名波は落ちていたナイフを拾った。
そして鈴木ら四人が名波が怪しいと言い出したのは、事件から十日経ってから。
もし、名波の言ったことを信じるならば。
証人たちが突然、平河名波について矛盾の少しもない供述をしはじめたのは、逮捕の決め手になった物証が作り出された、ほんの二日後なのだ。
(どういうことだ……?)