泣き顔の白猫
しかしそれが、滝元のつけ込む隙になった。
動揺させて本音でも出ればこっちのもの、苛立たせて反抗的な態度をとられても、状況が不利になるのは参考人の方。
これまでずっとそんな捜査をしてきた男だった。
「あの人は、刑事としても人としても最低だった。あんたの他にも、きっと何人も冤罪はあった。けどあれは俺のせいだ。俺があんなこと言ってなきゃ……」
名波は、安本の独白に、絶句するしかなかった。
まさか、たったそれだけのことで。
たったそれだけのことで名波は、あんなにも屈辱的な仕打ちを受けて、人と話すのが嫌になって、誰も信じられなくなって。
「指紋のついたナイフだって、本当は証拠能力には疑問があった。あれが発見されたのは、どこから噂が出回ったのか、死因も凶器がナイフってことも学校中に知られたあとだったんだから」
「え……」
「鈴木学たちの証言も明らかに怪しかった。不審なところは、探せばいくらでもあったんだよ。けど滝元さんは、ろくに調べようともしなかった」
そんな話は、はじめて聞いた。
名波が持っている知識なんて、刑事ドラマや推理小説で得た程度のものだ。
“指紋が出た”ら決定的、もう終わりなのだと、そんな認識だった。
放心したように、呟く。
「私……捕まらなくても、よかったんですか?」
「……三年前に、丸井が自殺した時」
安本が何か言おうとしたが、しかしそれは、突然の声に遮られることになった。
「遺書……ホントはあったんでしょう、畑野を殺したのは、自分だ、って」
息を切らして安本の背後に立っていたのは、加原だった。