泣き顔の白猫
「加原さ……」
張り詰めていた名波の表情が、その瞬間、泣きそうに緩む。
しかし加原は息を整えると、名波の方は見ずに続けた。
ちらりと、安本の右腕に目をやる。
「襲撃は自作自演ですか……自分でつけたんですね、その傷。車の運転ができるなら全然大したことないじゃないですか」
「……まぁな」
安本は、口許だけでへらりと笑う。
「遺書、隠滅したのは滝元さんですね。自分の強引な捜査のせいで冤罪を作り出したことが、発覚するのを恐れて」
温度のない視線。
敬愛していた先輩に向かって、軽蔑すら籠ったその眼差しに、なぜか名波の身が竦む。
水面下に真っ赤に熱した石が沈んでいるような、突然発火しそうな平静さを、恐ろしく思ったのだ。
「そういう人だったんだよ。自分が一番正しいと信じ込んでた」
「正しい? 何がですか。たった十七歳の女の子の未来を、自分の手柄と立場のために適当な理由をつけて奪うことがですか?」
「そうだよ。文字通り決死の思いで罪を自白した丸井の意志を、ライターで燃やしてトイレに流すことがだ」