泣き顔の白猫

安本のいる裁判所に背中を向けて、名波は歩き出した。
加原もそれに倣う。

しっかりした足取りで覚えのある方向へ歩いているのを見て、『喫茶りんご』へ向かっているのだとわかる。

今日はアルバイトは休みのはずだが。
不思議に思っていると、名波が不意に言った。

「私……、きっと殺されるんだって思ってたんです」
「え?」
「あの事件の関係者が次々に死んでるのを知って。松前さんのことをニュースで見た時、次は私か、丸井くんだろうなって」
「丸井のことは、その時は……」

首を左右に振る。
くるりとくせのついた髪が、ひらひらと揺れた。

「安本さんに聞いて、はじめて知りました」
「そうだったんだ……」
「私も、畑野くんを殺したのは鈴木くんたちのうちの誰かだろうって、なんとなく気付いてたんです。だから、きっと誰かが畑野くんのために復讐してるんだろうって思ってました」

加原は、無言の相槌を打つ。
名波は、前を向いて歩きながら、続けた。

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