泣き顔の白猫
後ろめたいからだ、とは、言えなかった。
そんな情けないことを言えば、“刑事としての”加原に一目置いてくれた名波を、失望させることになる。
加原は、小さく溜め息を吐いた。
名波の方を、向けない。
「そんなふうに、言われたら。……許されたって、思っちゃうでしょ」
「怒ってないって言ったじゃないですか。怒る理由もありません」
「怒っていいんだよ。許さないでよ。一瞬とはいえ、君に自首を勧めようと思ってた」
「だからそれは……、加原さんは刑事なんだから、」
「そんなの言い訳にしたくないんだよ、俺。刑事だから、片っ端から人を疑って当然なんて」
顔を背けたまま、加原は言う。
名波はその横顔を、じっと見ていた。
「何言ってるんですか。自分で自分が許せないとか、言うんですか」
「……いや、そういうわけじゃ」
「何カッコつけてるんですか。……加原さんのばか」
「、ば!? ……え、」
目を丸くして名波に振り返って、すぐにまた目を逸らす。
そんな加原に、名波は眉を寄せた。
「ふざけたこと言わないでください、……ちゃんと私のこと、見てください」
怒ったような声色。
けれどそれは、少し震えている。
「あの時言った、信じてくれてありがとうは、ちゃんと私の本心です。私の代わりにあんなに怒って怒鳴ってくれたことも、すごく嬉しかったんですっ」
あ、と、加原は、声に出さずに言った。
名波が声を荒げた真意に、気づいたのだ。