泣き顔の白猫
少し眉尻の下がった、情けなくて真剣な表情。
名波は、ずるい、と呟いた。
それから、しかたないですね、と言うように、手の甲で加原の手に触れた。
加原は、きょとんとしながら、その手を取る。
さっきよりもさらに真っ赤な頬と耳が、ちらちらと見えた。
このまま歩いて『りんご』へ行こうと、加原は思った。
手を離したくなかったからだ。
(てゆうかさっきの、結構な殺し文句)
――『ちゃんと私のこと、見てください』
加原は、吐息のような声で、小さく呟いた。
「見てますよ、はじめから」
「え?」
名波がきょとんと振り返る。
加原は、目を細めて笑った。
「好きだよって言ったの」
END.