泣き顔の白猫
ごく自然に、“最期”を考え始めていた。
そんな時だったのだ、彼女が、あの道を通ったのは。
とりあえず単身者用のアパートに入居手続きをして、職安へ行った帰りのことだった。
名波の経歴を聞いて、いい顔をする者は誰もいなかった。
まず無理でしょうね、という本心が、物言いにも表情にも顕著に表れている。
不快だがその事実は隠すわけにもいかなくて、そんなことも、名波の色んなところを深く抉っていた。
バス通りから、いまいち慣れない家路を辿る。
三月の終わりとはいえ、館町のような寒冷地では、まだ雪も完全には溶けきらないような時期だ。
まだまだ日は短く、五時半だというのに、もう辺りは薄暗かった。
灯りが見えた。
見覚えのある店構えだった。
名波が小学生の頃から存在は知っている、だが入ったことは一度もない店だ。
今まで興味を持ったことはなかったのに、その時は、いい匂いにつられるようにして、その扉を開いていた。
夕食時だというのに、席は半分も埋まっていない。
決して静かではないBGMが、客を静かにさせている。
恐る恐るカウンターの端の席に着いてはじめて、強面の店主が「いらっしゃいませ」と、ぼそりと言った。
メニューをちらりと見て目についたのは、母親がどうしても綺麗に作れなかった料理だった。