泣き顔の白猫

スツールに腰かけた加原とさほど目線が変わらない、小柄な人だった。
傷み知らずの黒髪に、かけたてみたいなくるりとしたパーマが可愛らしい。

顎の下までの髪をふわりと揺らして、にこりともせずに、その人は言った。

「ご注文は?」
「……え、あぁ、えと」

猫のような大きな目を瞬かせる。
吸い込まれそうなその瞳に思わず見入ってしまっていた加原は、慌ててメニューに視線を落とした。

「焼きそばと……コールスロー、おねがいします」

咄嗟にお気に入りのメニューと、なんとなく野菜を摂った方がいい気がして、目についたサイドメニューからサラダを頼む。
なんだか間抜けな注文だと思ったが、この店の焼きそばの量の満足感も特製ドレッシングの美味しさも十分知っているので、気にしないことにして。

しかし、彼女がマスターに注文を伝えるのを聞いてから、失敗した、と思った。

そういえば、利き手を怪我していたのだった。

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