泣き顔の白猫
四月も半ば。
早朝は新聞配達のアルバイト、昼間は仕事を探して、夜になると三日おきくらいに『りんご』に行く、という生活サイクルが、定着しかけていた。
「名波ちゃん、疲れた顔してますねぇ」
マスターが、人の顔を見ているような口振りで言う。
実際には、目線は手にしたカップと布巾にあって、それがなんとなく、今の名波にはありがたい。
小さく溜め息を吐く。
「仕事、見つからなくて。バイト経験もないし、私みたいな学のないの、どこ行ってもダメです」
「自己評価を下げすぎると、ここぞという時に頑張れませんよ」
名波は、父親に説教されているような、今までに体験したことのない気分を感じた。