泣き顔の白猫
「名波ちゃん、カプチーノのお代わりくれる?」
「あ、はい」
加原があまりぼんやりしていたので、自分の存在を認識していないとでも思っていたのだろうか。
名波がぱちりと、トイカメラのようなシャッター音が聞こえそうに、瞬きをする。
それが彼女の“びっくり”した時の仕草なのだと、最近になってようやく知ったのだ。
小さく笑う。
かわいいなぁ、とごく自然に思っている自分自身には、加原はとっくに気付いていた。
もうわかっているのだ。
ただ、まだこの自覚を独占していたくて、あえてほったらかしにしていた。
ロールプレイングゲームを、一番最初にプレイする時の感覚にも似ている。
誰の邪魔も入らないところで、一人で心置きなくのめり込みたい。
名波が淹れた二杯目のカプチーノは、一杯目よりも少し甘かった。
加原が見るからに疲れているのを、気遣ってくれたのだろう。
ほんのり香るココアに、ほう、と溜め息を吐く。