泣き顔の白猫
急いで食べる必要もないのだからと、食べやすさは諦めることにして、加原は頬杖を突いた。
前回ここに来たのは、一月ほど前。
あの時は、確かにマスターだけだったはずだ。
てきぱきとカウンターを拭く姿をなんの気なしに眺めていると、視線を感じたのか、女性は顔を上げた。
警戒した猫のような固い視線に一瞬怯んだが、目が合ったのになにも言わないのも変な気がして、加原は口を開く。
「最近入ったんですか?」
戸惑いがちに頷いて、女性が言う。
ぽとりと落とすみたいな、少しぎこちない話し方。
「一ヶ月くらい、前からです」
「あー……そっかー」
「加原さん、久しぶりですもんね」
マスターが焼けた野菜の香りのするフライパンを揺すりながら、口を挟む。
「そーですね、そういえば」
「忙しいですか、やっぱり」
「うーん……春ですからねぇ」