泣き顔の白猫
種明かしのように言うと、憮然としたような表情で黙り込んでしまった。
そんな名波を見ているのが楽しくて、加原は腰を屈める。
頭一つ分なんてものじゃない、身長差。
勝手がわからなくて、それが少し新鮮だ。
適度な距離を保って顔を覗き込むと、名波は目を伏せて顔を逸らす。
今は焦って動かない方がいい、と感じた。
別に、マスターの言葉と底の知れない笑顔を気にしたわけではないが。
「名波ちゃん」
「……あの、もうここでいいです、すぐ近くなので」
早口で言う。
そして踵を返す名波の手を、咄嗟に掴んでしまった。
細い肩を跳ねさせて動きを止めた名波は、緊張に強張ったような顔をしていた。
それを見た加原を、一瞬で後悔が襲う。
焦らないと決めたそばから、と思って、躊躇いがちに口を開く。
「えっと……あんまりこういうの、慣れてない?」
「……加原さん、わかってて聞いてますよね」
「じゃあ……好きじゃない?」
「その聞き方は、ずるいです」
確かにずるい。
ずるいとわかっていて、加原はそう言った。
好きじゃないと答えれば、加原を傷付けてしまうと考えたのだろう。
言葉のうえではそうでなくても、加原を好きではないと言っているように聞こえる。
だから触るな、と。
名波がそう思って答えることを躊躇うのを、自分の目で見て満足したくて、加原はそんな聞き方をしたのだ。
自分でも、厄介な奴、とは思っている。