泣き顔の白猫
革靴
加原の非番は、次の土曜日だった。
十二時に館町駅前で待ち合わせ。
昼食を食べて、それから適当に雑貨屋や洋服屋を見て歩いて。
そんな、肩の力を抜いた、学生のようなデートプランだ。
加原はいつもの朝より少し寝坊をして、シャワーを浴びて目を覚まして、軽めの朝食を食べた。
ストライプのポロシャツにパーカーにジーンズ、というラフな服装に着替えて、時計を見たら、十時半。
まだ、出掛けるには少し早い。
明るい茶色の革靴と、キャンバス地のスニーカー。
どちらを履こうか玄関で考えていた加原を、携帯電話の着信音が、部屋の中に呼び戻した。
ディスプレイには、『ヤスさん』と表示されている。
咄嗟に『名波さん』という文字(普段呼ぶ名前で登録するのは、なんとなく気恥ずかしかった)を期待した自分が照れ臭くて、加原は「はいもしもし」と早口で電話に出た。
電話口の安本の声は、どこか疲れ気味だ。
「おう、加原。悪いな、休みに」
「ヤスさん。どうしたんですか?」
「いや、例の不審死事件な。やっぱり、殺人事件として動くことになりそうだ」
「え!?」
加原は電話口で大きな声を出す。
携帯電話を耳から離したのか、一瞬安本の声が遠ざかった。
「一件目と二件目も、事故じゃない可能性が高いってことだ」