泣き顔の白猫
「えっと……かはら、さん。て、いうんですか」
ぎこちなく名前を呼ばれてそちらを向くと、女性が少し離れて、横に立っていた。
色白で、狭い肩幅。
白猫みたい、と思った。
普段の癖か、食べはじめてから十分と経っていないが、食事はもうあらかた終えてしまっている。
紙ナプキンで口許を拭いながら、体ごと彼女の方を向いた。
「ん?」
「あの、常連さんの名前、覚えておこうと思って」
「あぁ……、でも常連ってほど通ってるわけでもないよ、俺」
「こんな遅くに焼きそばやらオムライスやら大盛りで頼むのは、加原さんぐらいですからね。覚えるのに苦労はしないでしょうよ」
マスターはそう言って、目尻に皺を寄せる。