泣き顔の白猫


「ご協力、ありがとうございます。全力を尽くして捜査にあたります」
「えぇ……もう、生徒たちが辛い思いをしなくて済むように。ぜひともよろしくおねがいします」

写真を片付け始めた校長の手元を見ていて、加原は「あ」と声を上げる。

日常風景を切り取ったような、なんでもない写真。
教室の隅、窓際の席に、ただ席について本を開いている女子生徒が写っていた。
その顔に、加原は見覚えがあった――いや、見覚えなんてものではなかったのだ。

加原の声に気付いた校長が、片付けをする手を止める。

「この子……」

写真ではセミロングのストレートだが、黒髪の艶やかさは今も変わらない。

伏せた目と、小さな手。
物静かな雰囲気が、相変わらず不器用そうで、微笑ましい。

傍らにはコーヒーショップの紙コップがあって、昔からコーヒー好きだったんだ、と思うと、急に、ものすごく会いたくなった。
待ってるかな、と一瞬思いを馳せる。

校長は加原の視線の先を追って、「あぁ……」と、声を漏らした。

「こんなところに写ってたんですねぇ。カメラが嫌いな子だったから……」

それまで、悲痛だったり悲しげだったり、昔を懐かしむようだったりしていた声色が、その時だけやたらと無味無色なものになる。

気になった加原が顔を上げると、校長は表情までなくしていた。

あまりにも嫌な予感に、加原はぞっとした。
氷の針が、頭からかかとまで一直線に貫いたみたいだった。

「この子ですよ。平河さん」

校長の様子からなんとなくわかってしまって、こんな時ばかりは、仕事と安本に鍛えられた自分の観察眼が、憎たらしく感じた。



「畑野くんを、刺し殺したのは」



頭を抱えたいほどの衝撃に、不思議と、絶望感は含まれていなかった。

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