泣き顔の白猫
後ろ姿
加原は、腕時計を見た。
そして思わず、声を上げる。
「うっそ、もう十一時半!?」
署内にいる間に陽が落ちたことだけはわかっていたが、資料庫に籠りきりだったせいか、時間の感覚は全く正常に働いていなかったようだ。
結局あれから署に向かい、珍しい格好を同僚や上司たちにからかわれながらも、いつも通りに仕事をすることになってしまった。
五年前の事件の捜査資料や――逮捕後の、犯人の様子。
平河名波。
呼び慣れたはずの名前が見慣れなくて、妙な気分だ。
携帯電話のメールボックスを開く。
最後の送信メールは、二時頃、名波に送ったものだ。
やっぱり行けそうにないと、署に戻る前に連絡を入れようとしたのだが、名波は屋内にでもいるのか、電話に出てはくれなかった。
仕方がないので謝罪のメールを送っておいたが、それに対する返信もいまだない。