泣き顔の白猫
もうあと一時間ちょっともすれば、例の連続殺人の犯行時刻だ。
もし名波があれから家に帰っていなかったら、まだ全ての犯行が行われたこの西部地区にいるかもしれない。
しかも今回の事件は、五年前に名波が大きく関わった殺人事件と関係している可能性が高くなってきている。
加原が心配になって駅前まで来てみる理由は、それだけあれば十分だった。
「いないよな、そりゃ……」
加原は、独り言を呟く。
もうすぐ日付も変わろうかという頃なのに、未だ明るく人通りもある駅前に、加原が探す人影は見当たらない。
冷静に考えてみれば当たり前だった。
なにしろ待ち合わせはほぼ半日前の正午、メールは何通か送ったが、二時には今日は行けなくなったと伝えてある。
それから九時間以上も、待っているわけがないのだ。
それでも加原はどこか落ち着かなくて、駅前から『りんご』へ向かう道を、歩き始めていた。
名波の家にまっすぐ向かう道ではなく、わざわざ少しだけ手前で曲がる『りんご』経由の道を選んだのは、本当にただ“なんとなく”だった。