泣き顔の白猫
自分が名波のことをどう思っているのかも、はっきりとはわからなくなってきていた。
好きになった人が、殺人犯だった。
動揺はした。
動揺はしたが、それほどショックを受けているという自覚はない。
少なくともそれを聞いたせいで、名波に対する気持ちに変化があった気はしていない。
「……殺人、犯……」
試しに口に出してみたが、どうもさっき写真で見た高校時代の名波と、そのイメージは結び付かない。
今より少し長い髪、今と変わらない伏せがちの目。
きっといまいち実感できないんだろうと、やけに冷静な頭で考えた。
春の夜の、ほの暖かい気温と、ひやりとした独特な風。
それが加原を冷静にしているのか、夢見心地にさせているのかは、わからない。
けれど少なくとも、加原の目に飛び込んできた光景は、夢かと思っても仕方のないものだった。