泣き顔の白猫
「ひどいもんだな」
安本が現場の写真を見ながら、顔をしかめる。
その、犯人と被害者が揉み合ったらしき痕跡というのが、防波堤と路上とで、ずいぶん離れているのだ。
「ここで、松前佳奈子は何者かに襲われた」
安本は、一枚の写真を指差して言う。
路上で被害者の皮膚片が発見された地点だ。
そこから微量の血痕が幾つか、コンクリートに点々と続いた写真。
「殴られたのか蹴られたのか、地面に倒れ込んで、擦り傷を作った。血が流れるほどだし、傷の深さから見ても、かなり思いきりやられたんだろうな。それから立ち上がって、ここまで逃げて」
その痕跡は確実に、防波堤の方へと向かっていた。
逃げようとしたのか、それとも、気丈にも反撃しようとしたのだろうか。
そして防波堤の角に、また擦り付けられたような血の痕。
登る時にでも自分で擦ってしまったのか、犯人が引き摺り下ろそうとして揉み合った時のものかはわからない。
安本が、指先をつ、と移動する。