泣き顔の白猫

奥のテーブル席で立ち上がった客に気付いて、レジに急ぐ名波の後ろ姿を見送っていると、マスターがぼそりと言った。

「愛想が良いわけじゃないですけどね、真面目で良い子ですよ」

父親のような気遣いに、加原は笑顔を見せた。

「でしょうね。お客さんのことよく見てる」

加原は、空の皿に置かれたフォークをちらりと見る。

それきり無言になったところに、少し経って名波が戻ってきた。
加原は、さも今までずっと会話していたかのように、言った。

「マスターがそんなにおすすめするコーヒー、飲んでみたいなー」

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