遠い記憶
「…それは…直哉を忘れろって…言いたいの…?」
私の声は震えていた。
直哉が成仏出来ないのは、私が恋愛をしないから…なんて思いたくなかったから。
『忘れろとは言わない。
でも、俺は美鈴のことが好きだからこそ、前を向いてほしい。
俺が逝く前、瀕死状態の時美鈴に伝えたかった。
“俺はもうダメだけど、美鈴は幸せになってほしい。だから前を見て進んでくれ”って。』
それが俺の最期の願いだった。
直哉はそうポツンと呟いた。
「…でも……」
『美鈴の気持ちは痛いくらい分かるけど、もしこれが逆の立場だったら美鈴はどう思う?』
もしも…私が死んでいて、直哉が生きていたら…
答えは簡単だった。
「好きだからこそ、幸せになってほしい…と思う。」
その答えを聞いた直哉はニコリと微笑んだ。
『…それと一緒だよ。』
そっか…
ようやく直哉の言いたいことが分かった気がした。
好きな人の幸せを願うのは自然なことだった。
過去は変えることは出来ないけれど、未来は変えることが出来る。
直哉は15歳でこの世を去って…やり残したことはいっぱいあるはずだ。
…その中でも一番に私を考えてくれる優しさが…とても温かく、幸せだった。