遠い記憶


「その様子だと知ってるみたいだね。」


私の様子を見るなり、中野くんはそう呟いた。


「……で?」


私は蚊の鳴くような小さな声で呟いた。
そんな私の声が中野くんに届くはずもなかった。


でも、きっと中野くんは察してくれたのだろう。


「……夢に出てきた」


それだけボソッと呟いた。


夢……?
私も昨日、夢に直哉が出てきた。
そして中野くんの夢にまで。


私は震える声を振り絞りながら訊ねた。


「…なんで直哉が中野くんの夢に…?」


「わからない。
でもただ一言だけ、“美鈴を幸せにしてやってくれ”と残していった。」


直哉が言いそうな言葉だった。
そして、これでパズルがはまった気がした。


直哉が言っていた運命の人はやっぱり中野くんのことだった。


でも私は彼と出会ったばかり。
何で直哉は彼を“運命の人”と言ったのだろうか。


中野くんはいい人だけど、直哉のことが吹っ切れない今、彼を好きになる権利はない。そう思った。

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