スミダハイツ~隣人恋愛録~
「たとえば、お前の部屋の窓ガラスが割れてたとして、お前が不在の場合、緊急にお前にそれを伝えるには、携帯の番号を知っとく必要があるだろ?」


ギャルから聞きかじったのか、201号室の住人は、偉そうに言う。

202号室の住人は、少し考えるような素振りを見せた後、



「それもそうねぇ。隣に住んでて、いつも一緒に飲んでるから、改めてそんなこと思ったこともなかったわ」

「だろ? だから、教えろよ」

「でも、悪用されそうだから、嫌」


言うなり、ピシャッと窓を閉めた202号室の住人は、さらには窓に鍵まで掛けた。


口元を引き攣らせる201号室の住人。

それを見つめながら、晴香は不憫だなと思った。



「ふざけんなよ、この野郎! てめぇ、今から犯しに行くぞ!」


201号室の住人の咆哮が虚しい。

晴香は、肩で息をする201号室の住人を見やり、



「あなた方は一体どんな関係なんですか」


聞かずにはいられなかった。

201号室の住人は、不貞腐れたような顔で煙草を咥え、



「見ての通りさ。あいつが少しでも不安がってるかもしれないなんて思った俺が馬鹿だった」


あぁ、だから『よくわからない』なのか。

晴香は今更納得した。



「あなたがちゃんと好きだと伝えてあげないから、怒ってらっしゃるんじゃないですか?」


201号室の住人は、晴香の言葉に目からうろこが落ちたように、「あぁ、そうかも」と言った。

すくっと立ち上がった201号室の住人は、



「ちょっと伝えに行ってくる」


「うはは」と、笑って言った。
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