スミダハイツ~隣人恋愛録~
階段の方に行こうとした201号室の住人は、そこでふと足を止め、



「そういえば、花屋の『トラウマ』は何だったんだ?」

「大丈夫です。小さなことですから」


答えになってないかな、と、遅れて思った。

でも、201号室の住人は、「そうか」と言い、納得したらしい。



「まぁ、さっきの『防犯』の話も含めてだけど、何かあったらいつでも言えよ。同じアパートに住んでんだし。102も、ギャル子も、麻子も、いいやつだからさ。俺らは全員、花屋のこと助けるぞ」

「はい。ありがとうございます」


あなたも十分『いいやつ』だと思いますよ。

晴香は心の中で言う。


もう、関わりを持ちたくないなどとは思わなかった。



「またどうなったか教えてください。その、麻子さんとのこと」

「おー。わかんねぇけど、頑張るわ」

「はい」

「花屋もカレシできたら教えろよ? 『防犯』のためにも」


それの何が『防犯』に繋がるのかはわからなかったが、でも晴香はまた「はい」と言った。

201号室の住人が階段をのぼるのを見て、晴香もじょうろを置いて掃き出し窓から部屋に入る。


何だかとても、すっきりした気持ちだった。




きっともう、あの夢を見ることはないとは思う。

どうしてだかはわからないけれど、漠然とそういう気がしたから。


カレシができるかどうかは、今のところ微妙だが、でもできたら真っ先に、201号室の住人に教えようと思った。










END

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