スミダハイツ~隣人恋愛録~
「そんなに気になるんでしたら、ミサさんが直接、榊さんに聞いてみてはどうかと」

「榊があたしに、素直に教えると思う?」

「でしたら、麻子さんに聞いてみては?」

「うーん。でも、あたしが探ってると知ったら、榊がどう出るか」


良太郎にとってはよくわからない駆け引きがあるらしい。


同じアパート内とはいえ、何をそこまで、他人の色恋の話を気にする必要があるのか。

良太郎は首をかしげた。



それよりもミサはまず、大学での勉強についてもっと考えてはどうだろうかと、思ったけれど、もちろん言葉にはしないでおく。



「あ、そうだ。花ちんなら、何か知ってるかもしれない」

「……『花ちん』?」

「101号室の人。花屋で働いてるんだって。榊も『花屋』って呼んでたし。だから、『花ちん』」


何だかんだで、ミサも榊の変な思考に毒されているではないか。


そもそも、『花屋』は名前ではないのだから、『花ちん』と呼ぶのはおかしい。

が、良太郎も101号室の住人の名前が思い出せなかったため、訂正してやることもできず、そう呼称するしかない。



「花さんは、引っ越してきてまだ日が浅いでしょう?」

「でも、前に榊と仲よさそうに話してたよ。あたし見たもん」


それはまた意外だな。

良太郎が思っていたら、ミサはいきなり「あ!」と声を上げた。



「榊はもしかしたら、麻子さんと花ちんとで、二股してんのかも!」

「そんな、まさか。ありえませんよ」

「何言ってんのよ! 世の中、ありえないことなんてないんだし、わかんないじゃん!」


確かに、それはそうなのかもしれないが。

これまた突飛な話で、いよいよ雲行きが怪しくなってきた。


ミサは昼ドラの今後の展開についてあれやこれやと推察する、暇な主婦みたいだ。



「もういいじゃないですか。あのふたりが付き合ってるかどうかは別としても、榊さんが麻子さんを好きなのは、誰の目から見ても明らかでしょう?」
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