スミダハイツ~隣人恋愛録~


翌日。

夜6時を過ぎた頃、ミサは102号室にやってきた。



「見て、見て! 何か困っても大丈夫なように、色々準備しちゃったー」


コンビニ袋の中には、炭酸飲料水やポテトチップスなどのお菓子が、大量に詰め込まれていた。


そんなガサガサと音のするものをどうやって食べるつもりなんだ。

ただでさえ危険な行為に及ぶというのに、ミサはまるでその気などないらしい。



それより、あなたは給料日前じゃなかったんですか、と、言いたかったが、ミサはそんな良太郎をびしっと指差し、



「いい? 最初は軽い世間話から始めて、いい感じに場があたたまったところで、さりげなく麻子さんとのことを切り出すの。簡単でしょ?」


良太郎には難易度が高すぎる指令だった。

が、指示し終えたミサは、ミュールを持って寝室に行く。



「じゃあ、そういうことで。榊を呼んできて」


ドアが閉まる。


良太郎は胃をさすりながら、部屋を出て、二階の201号室のチャイムを押した。

帰宅したところだったらしい榊が顔を覗かせる。



「おー、102か。相変わらずのネクラ眼鏡だな。どうした?」


さらりと悪口が入っているが、それが榊なりの挨拶であることはわかっていた。

しかも今は、そこに突っ込んでいる場合ではない。


良太郎は意を決して言った。



「あの。実は晩ご飯を作り過ぎてしまいまして。それで、その、えっと、普段お世話になっている榊さんをお誘いしようかと。あ、ビールもありますので」


昨日の夜、寝ずに考えた台詞だ。

榊は「マジか」と言った。



「じゃあ、行く」


榊は特に疑う風でもなく、酒に釣られたのか、嬉しそうに良太郎の後をついてきた。

まずはこれで第一関門突破だ。

< 36 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop