スミダハイツ~隣人恋愛録~
翌日。
夜6時を過ぎた頃、ミサは102号室にやってきた。
「見て、見て! 何か困っても大丈夫なように、色々準備しちゃったー」
コンビニ袋の中には、炭酸飲料水やポテトチップスなどのお菓子が、大量に詰め込まれていた。
そんなガサガサと音のするものをどうやって食べるつもりなんだ。
ただでさえ危険な行為に及ぶというのに、ミサはまるでその気などないらしい。
それより、あなたは給料日前じゃなかったんですか、と、言いたかったが、ミサはそんな良太郎をびしっと指差し、
「いい? 最初は軽い世間話から始めて、いい感じに場があたたまったところで、さりげなく麻子さんとのことを切り出すの。簡単でしょ?」
良太郎には難易度が高すぎる指令だった。
が、指示し終えたミサは、ミュールを持って寝室に行く。
「じゃあ、そういうことで。榊を呼んできて」
ドアが閉まる。
良太郎は胃をさすりながら、部屋を出て、二階の201号室のチャイムを押した。
帰宅したところだったらしい榊が顔を覗かせる。
「おー、102か。相変わらずのネクラ眼鏡だな。どうした?」
さらりと悪口が入っているが、それが榊なりの挨拶であることはわかっていた。
しかも今は、そこに突っ込んでいる場合ではない。
良太郎は意を決して言った。
「あの。実は晩ご飯を作り過ぎてしまいまして。それで、その、えっと、普段お世話になっている榊さんをお誘いしようかと。あ、ビールもありますので」
昨日の夜、寝ずに考えた台詞だ。
榊は「マジか」と言った。
「じゃあ、行く」
榊は特に疑う風でもなく、酒に釣られたのか、嬉しそうに良太郎の後をついてきた。
まずはこれで第一関門突破だ。