スミダハイツ~隣人恋愛録~
「うぅー」


恥辱に耐え兼ねた良太郎の目の淵は赤くなっていた。

それを見た榊は、やっと、



「いや、悪い。わかった。もうこの話はやめよう。な?」


子供をなだめるように言った。



人を詮索しようとすれば、それ以上のしっぺ返しが来る。

良太郎はそれを身を持って思い知らされた気分だった。


これならもう、後でミサに怒られた方がマシだ。



「いえ、僕の方こそすいませんでした。もう榊さんのプライベートは聞きません」

「おいおい、極端なやつだなぁ」


榊は苦笑いする。

そして煙を吐き出しながら、



「でもまぁ、心配してくれてありがとな」


榊は、ミサの作戦とも知らず、良太郎に礼を述べた。

良太郎は榊を騙している気がして、良心との狭間で胸が苦しくなった。


その時、二階から物音が聞こえた。



「おっ。麻子のやつ、帰ってきたみたいだな」


榊はそれに反応したように立ち上がる。

きっと、これからその足で202号室に行くのだろうけど。


結局、今日はほとんど収穫なんてなかったが、でも良太郎は榊を引き留めようとは思わなかった。



「ごちそうさん。やっぱ102の料理は最高だな。田舎のばーちゃん思い出したよ」


それは榊なりの褒め言葉だろう。

良太郎は嬉しくなり、



「あの。またいつでも食べに来てください」


榊は「おー」と笑い、102号室を出て行った。

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