スミダハイツ~隣人恋愛録~
結局、良太郎はミサに甘いのだ。



ミサは子供と同じで、食べ物を与えるとひどく嬉しそうな顔をする。

良太郎は、そういうミサの顔を見ているのが好きだったんだなと、やっとわかった気がしたから。


だから、あの時に抱いた醜い感情は、榊が言ったように、愛の最果てだったのだろうと、良太郎は結論付けた。



「わかりました。すぐに帰ります」


電話を切ると、明確になった想いだけが良太郎の中に残った。

良太郎は豊田に向き直り、



「すいません、豊田さん。食事は無理です。僕なんかに好意を抱いてくださったことは非常に嬉しかったのですが、おかげで自分の気持ちがわかりました。あなたには感謝しかありません。ありがとうございました」


ぽかんとする豊田に何度も頭を下げ、良太郎は足を踏み出した。

早く『スミダハイツ』に帰らなくては。


ミサに土下座してどうとかいう話は、やはり良太郎にはまだ難易度が高すぎるし、ビンタや蹴りを食らうのは恐ろしいので、まずは分相応に、片思いするところから始めてみようと思う。



「ミサさーん! 待っててくださいねー!」


良太郎は夜の闇に疾走しながら叫んだ。









END

< 49 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop