スミダハイツ~隣人恋愛録~
「まぁ、いいじゃん。麻子は仕事の話をしてる時が一番輝いてるんだ。それが麻子の魅力なのに。なのに、そんなこともわからずにほいほい他の女に目が行くようなやつらとなんて、別れて正解だよ」

「榊くん……」


普段は好き勝手に振る舞っている榊だが、実は誰より優しいことを、麻子は知っている。



好きになってしまいそうだ。

いや、本当はもうずっと前から、麻子は榊が好きなのだ。


けど、でも、だからこそ、こんな関係を壊したくなくて、麻子は自分の内心に灯る気持ちから目を逸らす。



「麻子は頑張ってんだからさ。今度はその頑張りを認めてくれる男を選べよ」

「………」

「あ、でも、その前にお前の場合はまず、男を見る目を養え。29にもなって、そんなんじゃあ、結婚なんて夢のまた夢だぞ」


榊が自分を励ましてくれていることはわかっている。

なのに、麻子はそれに傷ついてしまう。


『今度は』なんて、私は恋愛対象として見られてない証拠じゃない、と。



「ほんとにね」


麻子は自嘲気味に言った。



「榊くんは? 結婚とか、考えたりしないの?」

「俺は、別に。してもしなくてもいいと思ってる派だし」


どんな派閥よ、それは。

言ってやりたかったが、でも麻子はぐっとこらえ、「そっか」と言うに留めた。


私と榊くんがどうにかなるなんてこと、この先、天地がひっくり返ってもありえそうにない。



「ってことは、まだまだ当分、この関係は続きそうね」


わざとらしく笑った麻子に、榊は伏し目がちに「だな」と返した。

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