スミダハイツ~隣人恋愛録~
「はぁ? お前、カレシでもできたのか?」

「カレシとかじゃなくてさぁ」

「じゃあ、いいだろ」

「だから、そんな気分じゃないんだよ。っていうか、あんたとはもう二度とそんな気分になんないし」


押し問答にしかならない。

ミサは諦めて席を立つ。



「帰る」


まだ講義は残っていたが、めんどくさくなってそのまま大学を出た。



大学から『スミダハイツ』までは、電車で1駅だ。

アパートに辿り着くと、花屋が庭いじりをしていた。


花屋はミサに気付くと、軍手を外し、



「おかえりなさい」

「あ、……うん」


実家にいた時みたいなくすぐったさがあり、ミサはぶっきら棒にしか返せない。


草がぼうぼうだった庭は、花屋が引っ越してきて以来、色とりどりになった。

そういえば実家の母も花が好きだったな、と、思い出し、少し安らぐ気持ちになった。



「ねぇ、榊が帰るのって何時頃かわかる?」

「さぁ? 元々、不規則みたいですし。最近は特に、朝早くに出て夜遅くに帰ってきますからね。今日も多分、遅いと思いますよ」

「マジかぁ。肝心な時にいないなんて」


ミサは途方に暮れて頭を掻いた。



「何か悩みごとですか?」

「あー……」

「102さんと、喧嘩でもしましたか?」


鋭いなと思った。

ミサは思わず苦笑いしてしまう。



「喧嘩だったら単純なんだけどさぁ。謝れば終わることだし。でも、そうじゃない場合の解決法って、難しいよねぇ」
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