スミダハイツ~隣人恋愛録~
夜になり、ミサは自室で色々なことを考えた。
今までのこと、これからのこと、そして良太郎のこと。
ミサは携帯を取り出し、良太郎に電話を掛けた。
しばらくコール音が鳴り、通話ボタンが押されたと思った瞬間、スピーカーから「ひゃはいっ!」と、相変わらずの、返事なのか何なのかわからない声が聞かれた。
ミサはちょっと笑ってしまった。
「ねぇ、良ちん。いつ帰ってくんの?」
「あ、えっと……」
「ご飯食べさせてよ。あたしもう餓死寸前なんだけど」
電話口の向こうが沈黙する。
「ねぇ、聞いてる?」
「は、はい。ですけど、ミサさん」
言いたいことは色々あったが、でもまわりくどいのは性に合わない。
ミサは、何か言おうとしたらしい良太郎の言葉を遮り、
「あたし、思ったんだけど。こんな気まずい感じのまま、良ちんのご飯食べらんなくなるの、嫌なんだよね。それは、他の男とセックスできなくなるより、嫌なの」
「………」
「良ちんの所為で、舌が肥えちゃったんだから、責任取ってよ。わかってる? 良ちんは一生、あたしのためにご飯を作らなきゃいけない義務があるの」
少しの間を置き、良太郎は「逆プロポーズですか?」と、素っ頓狂なことを言う。
何でそうなるんだ。
と、思ったけれど、確かに今のはそう聞こえてもおかしくないのかもしれない。
「まぁ、何でもいいから、早く帰ってきてよ。電話で話してても埒があかないし」
「ふひゃはい! すぐに帰ります!」
電話を切り、ミサはまた笑った。
良太郎と、どういう関係になっていけばいいかは、まだよくわからない。
でも、多分、どういう関係になろうとも、良太郎の料理を食べ続けている限り、ミサは幸せだと感じていられるだろうから。
今はそれでいいのだと思っておくことにする。
END