スミダハイツ~隣人恋愛録~
つまりは座敷わらしは、『スミダハイツ』を愛しているのだ。
かれこれ20数年前のことだったか。
座敷わらしがこの『スミダハイツ』に居座るようになったのは、新築当初からである。
だが、当時は人気物件であった『スミダハイツ』も、次第に時代に取り残されていった。
一時は入居者がゼロになり、建物の老朽化も手伝って、取り壊しになるという話も出た。
それでも大家がリノベーションとやらをしてくれたおかげで、『スミダハイツ』は昔の面影を残しつつ、綺麗に生まれ変わることができたのだ。
あの時ほど座敷わらしが安堵したことはなかった。
そして、懐かしい匂いに導かれるように、『スミダハイツ』にはまた入居希望者が現れた。
良太郎がきて、榊がきて、麻子がきて、ミサがきて、晴香がきて。
特にここ半年ほどは、座敷わらしにとっては、寝てばかりいられないほどの騒がしさだった。
昔は、住人に対して特段の思い入れはないと思っていたはずなのに。
なのに、若人の乱痴気っぷりに悩まされるのと同時に、一緒になって一喜一憂しているうちに、座敷わらしはいつの間にか彼らを見守ることが使命だと思えてきたのだ。
「おーい! 準備できたぞー!」
庭から榊の声が聞こえてきた。
やつらはまた何か騒ぎを起こすつもりなのだろうか。
座敷わらしは昼寝を中断し、むくりと体を起して壁をすり抜けた。
庭では宴の用意がしてあった。
昨今で言うところの、バーベキューとやらだろうが。
真冬だというのに、正気の沙汰ではない。
だが、住人たちは、網を囲い、笑顔で酒の缶を手にしている。
「えーっと。早速、乾杯したいところだが、その前にちょっと俺に時間をくれ」
何事なのかと、座敷わらしは身構えた。
榊は時々、現代人独特のおふざけを繰り出すことがあるので、その言動は、座敷わらしには一番の悩みの種だったのだが。