秋から冬への物語
カズの明るい笑い声で
ハッと我に返る。
「秋平の学生証、超マヌケ顔じゃん!」
カズの右手には
いつの間にやら俺の鞄から抜き取ったらしい、定期入れが握られていた。
「ばっ…返せよ」
「何でこんな気抜けた顔で写ってんの」
可笑しそうに笑うカズから、定期入れを取り上げようとするが
「ちょっ、返せってマジで」
「やーだよ」
器用に避けられて、なかなか取り返せない。
──こうなりゃ、力ずくだ。
「返せっつってんだろ!」
「おわっ、待っ…」
俺に飛びかかられたカズが、バランスを崩したその瞬間。
「あ。」
「え。」
後ろの窓が開いている事に、俺たちが気が付くはずもなく。
カズの手から放り出された学生証が
まるでスローモーション映像のように、窓の外へと落ちていった。
「「あーーっ!?」」