胡蝶泉(戯曲)
タイトル未編集

第一場 泉のほとり

夕暮れ時である泉のほとり。中国の山村。
遠くに雪を冠した山脈が見える。
仙人を真ん中に上手に赤いスカーフをまいた
女の子と下手に男の子が座っている。

(女の子)「おじいちゃん今日のお話は何なの?」

仙人ゆっくりと立ち上がり、
(仙人)「今日はな、この泉の物語じゃ。この泉は
不思議な泉でな、あの高い山なみからの地下の水脈
とつながってて、絶対に潜ってはいかんと昔から
言われておるのじゃ」

男の子立ち上がる。
(男の子)「でも潜った人はいるんでしょう?」
(仙人)「ああ何人かはな。わしの知る限りでは
数年前に二人が飛び込んだということを聞いた」

(男女の子)「ほんと?」
(仙人)「その昔にも飛び込んだものは結構
おるかも知れんな」

(男の子)「この紅衛兵の時代になって、そんな
ことは絶対ないと思う」
(女の子)「どうして飛び込んじゃったのかしら?」

(仙人)「それはいろんなことがあるのさ。時代が変わり
人の心が変わったように見えても、昔からちっとも変わらん
ものもあるのじゃ。あの大空やあの山々の峰のようにな」

(女の子)「その人たち死んじゃったの?」
(仙人)「それがな、不思議な泉のことじゃて、
死んだかどうじゃかよう分からんのじゃ」

(男の子)「飛び込んだら死んだに決まっている」
(仙人)「そうだ。飛び込んだら最期、どこかの地下水脈
の流れに飲み込まれてしもうて、もう助からんじゃろう」
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