胡蝶泉(戯曲)
(女の子)「だけどどうして飛び込んじゃったのかしら?」
(仙人)「誰も飛び込もうと思って飛び込んだわけじゃあない。
何かの事情で飛び込まざるを得なかったと思うんじゃ」

(女の子)「死ぬと分かってて?死体が上がらないと分かってて?」
(仙人)「だからこそじゃ。そう、そこに書いてあるな」

仙人立て札の所にいき指差して、
(仙人)「飛び込むなかれ底なしの泉なり。地下水脈にて
死体は二度と上がらない・・・・・・・だからこそじゃ」

(男の子)「大昔から書いてあったのかな?」
(仙人)「そう、大昔から書いてあった」
(男の子)「それでも、この紅衛兵の時代になって
飛び込んだものがいるなんて信じられない!」

(仙人)「ところが数年前に二人飛び込んだ」
(女の子)「どうして飛び込んだのかなあ?」
(仙人)「さらにこの不思議な泉には」

(男女の子)「さらにこの不思議な泉には」
(仙人)「飛び込むと同時に幾万もの蝶が天空に舞い上がる」
(女の子)「ほんとう?」

(男の子)「うそだ!この紅衛兵の時代にそういう事は絶対にない」
(仙人)「ところが本当なんじゃ。数年前の春本当に幾万の蝶が
舞い上がったんじゃ。多くの村人がそれを見ている」

(男の子)「俺は知らない」
(女の子)「私も知らない」
(仙人)「あまりの悲劇のために誰も多くを語ろうとしない。
恐らくその時、紅衛兵に追われた若いふたりがこの泉に身を
投げたのじゃろうといわれている」

ー暗転ー
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