空に知られぬ雪
 ここのところの試合が停滞していたのは天候のせいだが、そのためにもはや日課と化している試合が行われなかった反動なのか何なのか、いつもよりも騒ぎは大きい。
 久しぶりに顔を出した太陽に忙しく立ち回らなければならないのは、洗濯物を溜め込んだ主婦だけではない。長雨におとなしくしていることを強いられた高校生のフラストレーションも、相当に大きいようだ。
 とは言え、こんなことに貴重な昼休みのほぼ全てを潰している理由がどこにあるのか、わからない。おまけに、今日は汗ばむほどの陽気だ。更に汗をかくような遊びに興じているなんて、理解に苦しむ者だっていないわけではない。
 そんなふうに考えはしても、既にクラスの恒例行事になっているものを、一人で無視を決め込むのも協調性がないと思われそうだ。別に、この恒例行事を疎ましく思っているわけでもないのだけれど、自分には理解できないと思うだけだ。
 馬鹿の一つ覚えのように、毎日同じことで大騒ぎをしているクラスメイトの男子たちを見やって、小柄な女子生徒は窓際で溜め息をついた。
 久々に晴れた空が見えて気温は上がっているものの、今朝方まで降っていた雨のせいで湿気は高いままだ。湿気が多いと天然パーマ気味の髪がもっさりと広がってしまうのが、腹立たしくて仕方がない。朝のブローも何もかもが、あっという間に水の泡だ。片手で髪を押さえながらも、応援する他の女子に混じって窓の外を眺める。
「桜! ほら、応援したらいいよ!」
 わずかに上ずった声を張り上げて、桜と呼ばれた少女の脇から、もう一人の女子生徒が彼女の腕を掴む。
 桜はわずかに小首を傾げ、促されるようにして隣の友人が指差した方へと視線を転じた。
 コートの向こう側から、一人の男子生徒が窓際に群がる女子生徒に向かって手を振っている。試合に出ているということは、同じクラスの生徒だ。佐山武、だったはず、と桜は彼の名前を思い返す。彼はこのドッジボール大会の中心人物であり、クラスでも率先して騒がしくする生徒だ。だが、不思議と憎めない得な性分の持ち主でもある。
 一番張り切っているが、割と早い段階で沈没するのも彼だ。ついでに言うなら、これだけ昼休みに大暴れすれば、午後の授業などまともに受けられるはずもない。八割の確率で居眠りをし、教師に小突かれているのもまた、彼だった。
「佐山くん、桜のこと、気にしているみたいだって男子が言ってたよ。桜が応援してあげたら、張り切るんじゃない?」
 これ以上張り切って、どうしろと言うのだろう。
 何とも言えない提案に曖昧に笑い、桜は小さく溜め息をついた。
< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop