空に知られぬ雪
 正直な話、気にしていると言われてもピンと来ない。どうでもいいと言えば、そうなのかもしれない。誰それが付き合っているだの、誰が誰を好きだの、周りの少女たちはそんな話が大好きらしいが、桜はその手のことにほとんど興味を持てなかった。何だか、自分には関係のないことのような気がしてしまうからだ。
「ええと、気にしているって言われても……。私、そういうの、よくわからないから」
「また、桜はそんなこと言って」
 ダメだよ、そんなんじゃ。と、腕を掴んだ少女が溜め息交じりに言う。
「でも、本当によくわからないし、そんなことより図書館の本を読みた」
「恋愛をそんなこと呼ばわり! 年寄りじゃないんだから、そんなのダメだよ、桜! 別に佐山じゃなければなきゃいけないわけじゃないし、別のクラスの男子でも!」
 やたらと大仰に嘆かれて、桜は困ったように笑うしかない。
 クラスメイトの恋愛話をかわす口実でも何でもなく、本当にわからないから困る。わからないと言うよりも、身近な異性に対してそういう感情を抱くという現実が飲み込めない、とでも言った方がいいのだろうか。何だか、それは自分には違うような気がして、でも、そう言っても相手には伝わらないからわからないと答えるしかない。
 男子のやっている毎日の恒例行事もよくわからないと言えばそうなのだけれど、友だちの言う大事な『恋愛』だって、桜にはわからないもののひとつだ。
 そんな桜の抱く疑問を他所に、熱戦は相変わらず続いている。
 この勝負で負けたチームが、本日のクラス全員の掃除を引き受けるのである。元気のあり余っている高校生男子のやることとしては、割合にまともで建設的な結果を伴っているのかもしれないが、怠惰な昼休みを過ごしたい者にとっては少々迷惑な日課だと思わずにはいられない。だが、そこにはちゃんと救済策が用意されていて、試合をやりたい生徒に代理を頼むか、最初から掃除当番を引き受けるという宣言をしておけばいいという逃げ道もあるのだという。何ともわかりづらい念の入れようだ。
 そんなふうに取り決めができていることからして、わずか二ヶ月あまりで出来上がったクラスの和としては素晴らしいものなのだろう。
 勝負の景品とは言っても、その日の掃除当番が免除されるだけのささやかなものだ。そんなことに熱くなって、という疑問もあるが、おそらく、問題の根本は掃除当番なのではないのだろう。今日の試合が白熱しているのは、長雨の影響でたまった苛々がそこにぶつけられているせいに違いない。
 ぼんやりと試合の成り行きを見守っているうちに、どうやら勝負の行方は決まりかけているようだ。
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