Distance
恋する乙女
「あたし、大谷のこと好きになっちゃった」
久しぶりに参加した部活。
裕香のあまりに突然な発言に、あたしは運んでいたバスケットボールのカゴをひっくり返してしまった。
「何、急に・・」
彩が目を丸くしながら言う。
「こないだね、図書室で本の整理してたとき、高いトコに本返してくれたんだぁ」
「それだけ!?」
あたしは、落としたボールをカゴに戻しながら間の抜けた声をあげた。
「だってキュンをきちゃったんだもん♪背高いし、よく見たらカッコイイし!」
裕香は乙女モード前回で言った。
こないだまで、同じバスケ部の先輩が好きとか言ってなかったっけ・・?
引退しちゃって寂しい~、とか騒いでなかったっけ・・?
「アンタねぇ・・・」
彩は完璧に呆れた様子だ。
「だから、麻耶も彩も協力してね!?」
「それはいいけど・・・」
あたしと彩は、顔を見合わせた。
何せ、裕香は“恋多き乙女”。
どうせ、またしばらくしたら別の人を好きになるんだろう。
彩もあたしも、同じコトを考えているようだった。
「やっぱカッコイイ~!」
裕香は嬉しそうに、体育館の中心に張られたネットの向こうを見つめた。
あたしも、裕香の目線を追う。
バレー部が練習をしている。
大谷はライト。
あれでも、一応バレー部の部長だ。
バレーをしているときの大谷は、あたしでも少しカッコイイと思う。
「10分休憩ー!!」
ネットの向こうで、大谷が声を張り上げた。
相変わらず、裕香は大谷を目で追っている。
「集合ー!!各自ボール持って、シュート練するよー!!」
そんな裕香と大谷を交互に見つめて、あたしも声を張り上げた。