座りの悪い盆(信州シリーズ1)

水炊き

「ふん、あいつら鬼じゃ。塩山の財産ばっかり狙うとる。
わしがまだ生きとるうちは、まだ爺さんの遺言があるから

ええが、わしが死んだら全部あの一家が持っていきよるぞ
清一、気をつけんと一銭もお前の手には入らんぞ」

「いいじゃないですか。十分今これでいけていますから。
なあ、亜紀」

亜紀、清一を見上げて微笑みうなづく。

「お前とは人間が違うんじゃよ。清二は隣村の地主の娘と
駆け落ちして、今は神城に住んどる。時々来るがの。
酒の匂いをぷんぷんさせて相変わらずじゃ。わしはあの

春子という女が大嫌いでの、何をやらかすかあの連中、
まだまだ死ねん、ハアハア」
「あまり興奮しないでください、かあさん!」

ちょうどこの時、小百合が飲み物を持って入ってきた。
「もうすぐ母が帰ってきます。店を閉めた帰りに
スーパーに寄って。今日は水炊きですよ」
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