座りの悪い盆(信州シリーズ1)
その晩清二はこっそりと白馬台高校の理科室に
忍び込んだ。かつて中退する前に理科の実験に
出たことがあった。その時化学担当の教師

(今の教頭)が注意事項を話した。
「ここの劇薬を扱う時だけは重々注意してください。
特にこの青酸カリとか」

この時誰かが質問をした。
「どれが青酸カリですか?」
「このシアン化カリウムというのが青酸カリのことだ。
こちらのシアン化ナトリウムも同様に劇薬だ」

清二は二度と実験に出る事はなかったが、
この日の事は鮮明に覚えていた。
「あれが青酸カリだ。あの鎖は番線カッターで切れる」

清二は皮手袋をはめ、番線カッターを持って忍び込んだ。
すぐに劇薬棚は見つかった。瓶の位置もそのままだ。
清二は鎖を一気に切断するとすばやく二瓶を掴んで逃走した。

得意げに瓶を見せた時、春子は驚き血の気が引いた。
「あんた、ほんとに本気なのね?」
「ああ、本気で決着をつけると言うたじゃろが」
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