ミラヘノラブレター
「お疲れ様~♪やっぱり彼女だった?」
「あぁ…。」
「そかそか。彼女も好きだね~。」
時空管理室に戻ると、赤く長い髪を一つにまとめた白衣姿のマサキがニヤニヤと笑っていた。
「…仕事しろよ。」
「ヤトがサボってサアラちゃんと逢引してるってのに、俺ばっかり仕事なんてしてらんないよ~。」
「……逢引なんかじゃない。てか、なら変わってくれよ…。」
思わずまた溜息が出た。
「だから乙女心が解らないんだよ~。」
…と言いながらマサキは席に戻っていく。
こんなに変な奴がどうやってシステムを作るんだか…。
マサキは国でも有数のシステムエンジニア。
見た目や態度からは想像できないが、最年少で時空保護のプログラムを立ち上げた。
さらに、それを越えるシステムをお茶を飲んで鼻歌を歌いながら簡単に作っている。
だからこうして時空管理室で仕事をしているわけだけど…
未だに信じられない…。
ペアを組んでもうすぐ3年が経とうとしているけど、ますます解らなくなるばかりだった。
(だいたい何でアイツは無理やり時間を越えたがるんだ…?)
考えながら、管理室の窓から星空に目をやる。
星空を見ているとなんだか何か忘れている気になる。
や、そもそも過去なんて忘れてしまってるんだけど。
子どもの頃、時間旅行の事故に巻き込まれ、生き残りはしたものの、それ以前の記憶がさっぱり抜けている。
時間旅行の事故はほとんどないのに、大当たりを引いてしまったらしい。
しかも、どの時間かも解らない。
時間に紛れて落ちたのが"ココ"だった。
しかも、たまたま拾った爺さんが、時間管理のお偉いさん。
マサキの爺さんでもあるんだけど…。
精密検査の上、記憶以外の異常がなかったから、俺はそのままマサキのところでお世話になっている。
…と言っても、それも覚えているわけではなく、聞かされたのはこの仕事を始める前だけど。
だから、本当の親も家族も生まれた場所も俺は知らない。
別にそれでいいと思っていた。
"ココ"の暮らしは不便じゃないし。
ろくでもない親もいる世の中だから、無理に親を探さない方が幸せって事もある。
それに俺は"ココ"より何故か身体能力も標準より高いらしい。
それも生活していくには好都合だ。
自分がいた世界なんて、記憶にないのだから…
バタバタしても仕方がない。