まだ好きです(完)
すいませーん。雛さんに、用がありまーす。」


………。あれ?誰もいねーか。保健室は静かで、俺と、寝ている雛、二人しかいなかった。雛は爆睡中。これ…おきんのか?

保健室のカーテンがゆらゆらとゆれている。もうちょっとで、雛の顔に当たりそうだ。くすぐったそうにして眠る雛の顔がおもしろかった。

「雛~。おーい。雛さーん。起きてください。」


俺は雛のほっぺをぎゅーっとつまんだ。それでも、幸せそうに眠っている。俺の心がどんどん、雛にもっていかれそうになった。……と、その時。


「はっ……!!!!」


いきなり、雛は目を開くと、おおきなあくびを一回して、俺のほうを見た。雛は驚きをかくせないのか、目がいつもの二倍は大きくなってる。




「ごめん!駿!私……。」

え?なんで雛は謝ってんの?俺の頭の中には、大きなハテナマークが浮かんだ。そして、一つため息をした。


「雛、倒れるなんて、どんだけ興奮してんだよ…心配したんだからな」


そういって、俺は雛の顔を見た。雛は目を光らせている。


「……駿、ありがとう」



雛……なんで、おまえはいつも、こんなに優しい顔で笑うんだよ。なんでいっつも、おまえは……こんな無邪気な顔で俺を見るんだよ。




「………雛?」

”いましかないんだ。17歳の運動会は。だから、後悔しないように、言った方がいい。”




団長先輩の声が、生々しく俺の耳に残ってる。17歳は一度だけ。



俺は、拳をにぎった、カーテンから見える太陽に背中をおされて、だんだん重い口が開いた。

「……好きだよ」






「え?」

俺は続ける。

「記憶をなくしてからも、記憶が戻ってからも、なんか足りなかった。雛、おまえがいないとダメだわ。俺」



「……う……そ」

雛は唇が震えていた。そして、目にいっぱいの涙をためていた。


「瀬羅ちゃん……は?」


瀬羅…?雛は、瀬羅の事、気にしてたのか?今まで。

「あー。瀬羅は、もう大丈夫。あいつは、一人で生きていける」



雛はためていた涙を一つ…二つと流した。その涙は透き通った、綺麗な涙だった。



そう、雛の心のように。





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