平穏な愛の落ち着く場所
離婚してたのか……
冴子のやつ、何で教えてくれなかったんだ。
崇は信号で止まると、
助手席で眠る千紗を見た。
渋々車に乗った彼女は、高速を走り出すと
うとうとして、すぐに眠ってしまった。
都内に入った今もぐっすり眠っている。
化粧で隠しきれていない目の下のくまを
そっと撫でてやりたくなる。
崇はそうする変わりにハンドルを
ぎゅっと握り締めた。
どうしてこんなに疲れているんだ?
いや、そもそも何故シングルマザーで
大変な思いをしているんだ?
彼女の実家は資産家で
嫁いだ先は郊外の大きな病院だったはず。
たしか…野口総合病院の……
そうだ、野口元《のぐちはじめ》。
俺より3つ上のあの優男は、なんとなく
いけすかない野郎だった。
いったい何があったんだ……
後ろからクラクションが鳴らされる。
考え事をしていたせいで、
信号が変わった事に気付かなかった。
慌ててスタートさせると、
千紗がゆっくりと瞼を開けた。
くそっ!
もう少し寝かせてやりたかったのに。