平穏な愛の落ち着く場所
病院の裏手にある駐車場に、黒い高級車が見えた。
その車から、蒼真さんが降りて続いて紗綾が
降りて来るのが見える。
『紗綾!』
私の呼ぶ声に紗綾は弾かれたようにこちらを見た。
『ままっ!』
走り出したのは同時だった。
崇さんと、紗綾の手を繋いでいた蒼真さんが同時に『走るな!』『走ったら危ない!』
と叫んでいた。
ボールのように勢いよく一目散にかけてきた娘をぶつかるように抱き止める
『ままぁ……ままぁ……』
『ごめんね、紗綾…ごめんね』
しがみつき、声をあげて泣く娘を千紗は
強く強く抱きしめた。
ひとしきり泣いて気がおさまったのか、
紗綾は顔をあげると
『あのねまま、すごいの、わかちゃんちね、
すごーくおおきくてね……』
と初めてのお泊まりの報告を始める。
『まって紗綾、ご挨拶しないと』
慌てて立ち上がると、さっき思いきり走ったせいか、立ち眩みに倒れそうになる。
『無理するな』
いつの間にか傍にきていた彼が支えてくれた。
『そうですよ、無理をしてはいけない』
今日はカジュアルなスタイルの蒼真王子が
相変わらず柔らかく優しそうに微笑んだ。
『ついさっきまで涙ひとつ見せなかったの
に、小さいのに気丈でいい子だ……』
紗綾の頭を撫でる蒼真さんの瞳がうっすらと揺れていた。
ああ蒼真さんはいい父親なんだなって
それだけで涙ぐんでしまいそうになる。
『娘が大変お世話になりました』
『いいんですよ』
改めて頭を下げて、一度顔をあげてから
『昨日はお恥ずかしい所をお見せしてしま
った挙げ句、助けて頂きありがとうござい
ました』
もう一度深くお辞儀をする。
巻き込まれたら面倒になるかもしれない
見て見ぬ振りだってできたはずなのに
蒼真さんは助けてくれた
『止めてくださいっ!おいっ崇!』
蒼真が困ったように崇を見た。
『千紗、もうそれくらいにしてやれ』
彼に促されて頭をあげると、
そこにはやっぱり蒼真王子の優しい笑顔があった。
『ところで……』
蒼真さんは今日の予定を言いにくそうに切り出した。