平穏な愛の落ち着く場所


『だめーっ』

突然、鈴を転がしたようなかわいい声がしたかと思ったら、まるで蔦谷喜一のぬりえから
飛び出してきたような、ピンク色の頬に
くりくりお目目の可愛らしい女の子が
駆けてきて紗綾の手を引っ張った。

『いやっ!わかな、おねえちゃまといくの
 ねっ、いいでしょ?』

『和奏、お姉ちゃまを困らせてはダメよ』


私に向かって頭を下げるのは蒼真さんの
奥様の……

えっと、
道崎夏音(みちざきかのん)さん、
あっ、今は
結城夏音(ゆうきかのん)さんか。


同じ学校の同級生の彼女はクラスが一緒に
なることはなかったけれど
ピアノがとてもお上手で、色々なコンクールで優秀な成績を修めていらしたし

何より蒼真王子がまだ二十歳の時に結婚した相手が同級生だったから、友人の間でもかなりの噂になったので、顔は知っている

……つもりだった


『ごめんなさいね』


上げられた顔を見て驚いた。

こんなに綺麗な方だったかしら!


『いいえ、こちらこそ昨日は娘が大変お世話
 になりました』

千紗も慌ててお辞儀をした。


『しゃあやちゃんのおかあしゃま、
 どうしてもだめ?』

袖を引かれ見れば、純真無垢なくりくりの
二つのお目目がうっすらと滲んでいる。


『ぱんださんいっしょにみよ?』


斜め上の方から崇さんの痛い視線を感じる。


私、まだダメなんて言ってないのよ

待ってって言ったのは、
彼が当たり前のように
私と紗綾の家族のようにしているから
戸惑ってしまって……


『えっと……』


多少、体調の不安はあるけれど
承諾しようとしたその時だった。


『和奏、今日はあきらめろ。そのかわり
 今度みんなで遊園地へ行こう。
 観覧車、一緒に乗ってやる』


崇さん?

どうして?


っていうか、その俺様な感じは
子供には通用しないでしょう?


『崇さん、私なら……』


『うん、わかった』


『えっ?!』


うそっ?即答?!

さっきまで私に必殺技みたいなおねだり顔だった娘が?


『よし、いいこだ』


『たかしゃんがいうならしょうがないよ』


えええ???
何その関係???


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