平穏な愛の落ち着く場所


『気分が悪いのか?』

崇さんの声で我に返った。

慌てて夏音さん達を追って歩きだした。

『平気』

歩きながら言ったのに、彼は近くの木陰で
足を止めさせて、熱を測るようにおでこに手を当ててきた。

『そろそろ引き上げるか?』

『大丈夫よ』

熱なんかないのに。

手を外してもらおうとすると、その手が降りてきて頬を包まれた。

『さっき、夏音と何を笑っていた?』

親指が優しく目の下を辿る。

『昔話……かな』

『おまえたち友達だったか?』

『ううん、違うけど同じ学校だったもの
 共通の話題はあるのよ』

問い詰めるように眉間にシワを寄せられても
絶体に内容を話すわけにはいかない。
それでなくとも、崇さんは自分が王子と呼ばれていたことを極端に嫌がっていたから。

『やけに楽しそうだったじゃないか?』

そうかも知れない。
だって久しぶりに昔に戻ったような気分になれたから。

『私たちだって女子高生だった頃があるの』

『なるほど』

『なによ、どうせ今はすっかりおばさんよ』

『俺は何も言ってないぞ』

彼はくくっと笑って手を離すと、再び歩きだした。


千紗は息を深く吐き出した。

胸がドキドキしている。

私、目眩より心臓が悪くなりそう。


さっきの夏音さんの言葉がよみがえる。

《どうして加嶋さんじゃダメなの?》


ダメじゃない……



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